メンタルヘルスエキスパート産業医養成コース修了!

先週にひきつづき、メンタルヘルスエキスパート産業医養成コースに参加してきました。後半の2日間は、扱いに苦慮するメンタルヘルス事例の事例検討、復職支援の事例検討、復職の仕組み作り、事業所のメンタルヘルス活動の仕組みや計画作りなど、より実践的なグループワークを行いました。

産業保健活動は企業によってその仕組みや活動の内容がずいぶん違います。しかし、そういった事情の違いを踏まえた上で、「産業医」という共通の立場から、お互いの経験や意見を交換することは、とても刺激的で、面白く、たいへん勉強になりました。

今日の講義の中では、『メンタルヘルス対策(復職支援)を進める上では、(1) 個別の事例に対応する専門家としての技術、(2) 事例に適切に対応するための社内のルールや体制づくり、(3) 事例に適切に対応するための職場風土づくりのすべてが必要である』という言葉が印象に残りました。

産業医が専門職である以上、(1)は当然求められます。しかし、(1)だけで問題が解決することはほとんどなく、やはり(2)や(3)が必要になってきます。これはメンタルヘルスの問題に限ったことではなく、過重労働の問題、アルコールの問題、メタボリックシンドロームの問題、喫煙の問題、化学物質の問題など、すべてに共通しています。

つまり「個別の事例への対応」をていねいに行いながら、それを通じて、あるいはそれに関連して「職場や事業者への働きかけ」をも行っていくことが、産業医の基本的な仕事のスタイルではないかと思います。

ただし、こうした事を一度にすべて行えるわけではありません。そこで「準備をしておいて、アプローチを少しずつかけながら、いいタイミングを待つ」という姿勢も、産業保健活動の基本的なスタイルのひとつなんだそうです。

とても勉強になった4日間でした。

看護学生のための産業保健講座「組織の健康管理」

先日、看護学校の学生さんが職場見学に来ました。「壮年期の健康管理」という分野の実習だそうです。産業保健のことを全く知らない学生さんに、そのポイントをたった45分で説明しなければいけません。今回は「病院と産業保健の違い」「組織の健康管理」についてお話をしました。

■病院と産業保健の違い

以前の記事でも少し説明したように、病院での医療行為と産業保健活動には上図のような違いがあります。

産業保健活動の目的は、事業主の安全配慮義務と労働者の自己保健義務のお手伝いをすることです。就業可能レベルの健康度を目指した予防活動や、安全で健康に仕事ができる職場環境作りの活動を行っています。

企業によって経営方針や業務形態が異なるため、社内の健康管理の仕組みやスタッフの配置はそれぞれ異なります。変化するさまざまなニーズにこたえるために、効率的にリソースを配分して計画的に活動することが求められます。

■個人の健康と組織の健康

病院では主に「個人の健康管理」を行い、地域保健や学校保健では「集団の健康管理」という活動が加わります。産業保健ではさらに「組織の健康管理」という視点が求められます。

ところで「健康」とは、どんな状態なのでしょうか。産業保健分野では「働く」ということを中心に、次のように「健康」を考えます。

(1) 病気やケガをしない
(2) しっかり仕事ができる
(3) 仕事はもちろん、家庭や地域社会などでも活躍できる

同じことが、組織の健康にも当てはまります。

(1) 社員が病気やケガをせず、安全に快適に働ける
(2) 社員がしっかり働き、組織として機能する
(3) 社員の家庭や地域社会にも貢献できる

「健康な組織」とは「社員の健康作りを応援できる組織」と言い換えてもよいでしょう。

■組織の健康管理 = 個人の健康管理 × たくさん

産業保健スタッフは、個人の健康管理と組織の健康管理の両方を支援します。組織の健康管理を行う方法には「なるべく多くの個人や職場と関わり、個人の健康管理を通じて、組織の健康を見る」というアプローチがあります。

このアプローチを成功させるためには、個人の健康管理を行うすべての場面において、組織の健康について問題意識を持つことが必要です。高残業や過重労働、メンタルヘルスの問題、職場環境、事故やケガの背後には、組織の問題が潜んでいることがあります。複数の人から同じような話を聞いたときにも要注意です。

組織の問題を見つけたら、健康管理や安全管理の視点、あるいは法的な視点から、上司、人事、経営者などに情報をフィードバックし、問題点やリスクを指摘します。

■と、偉そうな事を言いましたが……(笑)

と、何も知らない看護学生さんの前で、いろいろ偉そうなことをしゃべったわけです。ただ、自分自身をかえりみると、こうした活動がうまくできているかどうか、あまり自信はありません。とにかく自分の仕事について、じっくりと見つめ直すよい機会になりました。少しでも産業保健活動のポイントや面白さが伝わればいいなと思います。

産業医は社員の味方? それとも会社の味方?

主治医と産業医の違い

ときどき「復職可の診断書を会社に提出したが、産業医に却下された」「産業医は会社の手先だ」という話を聞くことがあります。主治医の診断書と産業医の意見書、会社はどちらを優先すべきなのでしょうか。産業医は本当に会社の味方なのでしょうか。

 
そもそも契約関係が違うし、目指すゴールも違う

病院の医師(主治医)と患者の間には治療契約が存在し、主治医は患者の生命と健康を最優先に治療を行います。主治医が目指すのは日常生活レベルの回復、つまり退院して家で暮らせるようになることです。

産業医は社員との直接の契約関係にはなく、会社と業務契約を結び、会社が安全配慮義務を果たす手伝いをしています。産業医が目指すのは就業可能レベルの回復、つまり社員が元気に働けるようになることです。

 
社員の味方だとか会社の味方だとかではない

つまり産業医は社員の味方だとか、会社の味方だとか、そういう立場ではないのです。あまり「対立」や「中立」とかいう考えにこだわると、社員や会社への健康支援活動がやりづらくなることがあります。
 
主治医の診断書と産業医の意見書の違い

主治医は患者の利益を最優先する立場にあります。患者に「復職可能と書いて欲しい」とか「自宅療養が必要と書いて欲しい」と頼まれると、その意向を最大限に取り入れた診断書を書きます。

産業医は、健康上の問題を抱えた社員が安全に働くために、本人の状態・仕事の状況・就業規則などを総合的に判断して、会社に意見を述べます。最終的には、産業医の意見を参考にしながら、就業規則や判例に従って会社(人事担当者)が判断を下します。

 
トラブルを避け、スムーズに職場復帰を進めるために

復帰のトラブルの大半は、職場復職に関する認識の食い違いが原因です。トラブルを避けるには、休業している時から定期的に産業医面談を行い、職場復帰の進め方について早い段階から話し合い、時間をかけて共通認識を作っていくとよいでしょう。

参考:

制度だけではうまくいかない ~うつ病の復職について~
病気の社員だけがケアの対象ではない
うつ病の人をうまく励ますコツ
産業医とは?  産業医の仕事とは ?

チームを運営できる産業医に、なりたいなぁ~

最近ずっと、社内の産業保健プロジェクトの企画書を書いていました。

プロジェクトといっても大した内容ではありません。「禁煙に関するポスターを作成して、毎月社内に掲示しよう」というだけのことです。やろうと思えば、明日からでも、僕ひとりだけで始められます。しかし、それでは「単なる思いつきの行動」と何ら変わりませんし、チームとしての活動にも発展しません。
 
「企画、提案、プレゼン、会議の運営、チームの立ち上げ、プロジェクトの運営」……。ふつうの会社員は当たり前に行っていることですが、以前の記事に書いたように、僕にとってはどれも初めて。本を買ったり、上司や同僚に相談したり、友人にアドバイスをもらったり、苦労の連続です。

産業保健活動の「効果」は10年後?

例えば、販売促進の企画であれば、その最終的な目標は、見込み客の増加、新規顧客の獲得、優良顧客へのサービスなどを通じて「会社の利益を増やすこと」です。

産業保健企画の最終ゴールは「社員の健康という企業の根幹資源の管理に貢献すること」です。社員の健康度アップ、と言えば少しわかりやすくなります。しかし、売上げアップやコストダウンなどと比べると、成果を数字で示すのが難しく、効果が出るまで時間もかかります。

「禁煙のポスターを掲示する」という今回の活動の最終目標は「肺ガンの減少」ですが、その結果が出るまでは10年以上かかるでしょう。そもそも、ポスターの掲示だけでは「禁煙する」という行動には直接つながりません。せいぜい「禁煙への関心度アップ」が妥当です。これを数字で示すには、前後でアンケート調査などを行う必要があります。

事業主、社員、チーム、それぞれのメリットは?

産業保健企画の「顧客」は、サービスを受ける社員と、社員を雇用する事業主です。それぞれ立場によって、活動への期待は異なります。また、産業保健チームにもいろいろな考えの持ち主がいます。「禁煙のポスターを掲示すること」のメリットは何か、事業主、たばこを吸う社員、吸わない社員、産業医、保健師、衛生管理者、それぞれに説明できなければいけません。

東に社長がいれば「肺ガンの死亡者が減ります。受動喫煙対策は法律でも定められています。喫煙問題は社内でも関心度が高く、改善すれば社員の満足度が向上します。」とアピールし、

西に喫煙者がいれば「たばこをやめれば病気になりませんよ。どうせ吸うなら、いい環境の喫煙室で吸いましょう。必要なら禁煙のお手伝いをします。」と言い、

南にたばこを吸わない社員がいれば「喫煙室を整備すればにおいも漏れません。みんなが利用でき、職場のコミュニケーションを活性化できる場所も作りましょう。」と声をかけ、

北に産業保健チームがいれば「最初は小さな活動でも、社員の関心度を高め、ニーズを調査し、今回の結果を生かして、今後、効果的な活動へとつなげていきましょう。」とやる気を引き出す。

そんな産業医に私はなりたい……なぁ(笑)。

スーパー産業医への道

ニーズ調査、企画、立案、実施、効果評価と、一連の運営サイクルを回すのは大変なことです。このような手続きを踏まずにイベントだけを実施することもできます。同じような活動内容であれば、効果に大差は無いでしょう。

しかし、手順を踏んで行われた企画は社員にも受け入れられやすく、チームのモチベーションも高くなり、結果を次に生かせば、より質の高い活動へと発展していけます。何より、チームで活動すれば、ひとりで活動するよりもずっと大きなことができるのです。

「産業保健スタッフをまとめ、チームを運営すること」は、産業医に求められる上級スキルです。来週にはチーム内での会議があり、その後、会社側に提案するプレゼンの機会もあります。雨にも負けず、風にも負けず、チームの力を借りて、ぜひ、この企画を成功させたいと思っています。

医者は個人プレイ、会社員はチームプレイ

「医者は個人プレイ、会社員はチームプレイ」
最近つくづく、そんなことを考えます。
 
病院では、診断から治療までの一連の仕事をすべて医者が行います。チーム医療とは言われますが、最終的な意思決定を行うのはやはり医者。患者も医者の言うことには耳を傾けます。「医学的に正しく、治療効果が高いことが良いことだ」という共通の価値観を、みんなが持っています。

ところが会社組織では違います。会社組織の中では、チームメンバーに説明し、上司や関連部門にプレゼンし、顧客にアピールするなど、たくさんの人の手を経て仕事が動いていきます。部門や立場によって価値観や考え方が少しずつ異なるため、意見を調整したり、合意を取るのは簡単ではありません。

いろいろな本を読むと、会社の中で仕事をする産業医は「病院でのやり方」だけでなく、「会社の中での物事の動き方」も熟知しておく必要があるそうです。

例えば、社内で何か健康推進活動をしようとした時には、同じ産業保健スタッフである保健師や衛生管理者の協力はもちろん、上司や関連部門の承認も必要です。会社の中で施策を実行する最も効果的な方法は、「安全衛生委員会で企画を提案して、年次計画に組み込むこと」だそうです。そのあたりの会社の仕組みが、まだピンと来ていません。年次計画って、企画って、提案って、何をすればいいんだろう?

……そんなわけで、『産業保健マーケティング』、『企画書の書き方・まとめ方』とか、本を買ってきて勉強中です。今までじっくりと考えたことのない分野なので、なかなか大変です。