制度だけではうまくいかない ~うつ病の復職について~

メンタルヘルスの不調をきたした社員のための、休職や復職のための制度を整える会社が増えています。このサイトでも「うつ病の社員の治療と休職」、「うつ病の社員を段階的に復職させる制度」という記事で、うつ病になった社員をどのように休ませ、どのように復職させればよいのか説明しています。

しかし、せっかく良い制度を作っても、産業医や人事などが上手に連携しないと、適切に運用されないことがあります。
 
産業医の指示が不十分で、初日から残業していた事例
うつ病の社員を復職させるとき、産業医は「意見書」という書類を発行します。意見書の中で、就業制限などを会社側に説明するのですが、以前、あまり細かい指示をせずに「復職を開始して下さい」とだけ書いたことがあります。うつ病の復職事例が多い会社なので、こう書けば半日勤務から出社がスタートして徐々に勤務時間を延長してくれるのだろうと考えていたのです。

しかし、それを見た人事は「産業医が細かく書いていないということは、きっと良くなっているのだろう」と判断し、初日からフルタイム勤務で出社を開始しました。そればかりか、初日から残業までさせていたのです。

産業医と人事とのコミュニケーションが不十分だったための失敗です。それ以降、復職の際はかなり細かく指示を出し、産業医がその経過をチェックできる仕組みを作りました。そのおかげで、本人、上司、人事、産業医で情報を共有できるようになりました。

産業医と人事が言葉の意味を取り違えていた事例
「社内用語」がもとで誤解が生じることもあります。ある時「以下の内容でリハビリ出社を始めて下さい」という意見書を書いたところ、人事の担当者からこんな電話がかかってきました。

人事 「意見書を拝見しましたが、この方は【リハビリ出社】できません」
産業医 「え? どういうことですか?」
人事 「まだ【リハビリ出社】ができないんです」
産業医 「そろそろ元気になってきたので、復職をはじめたいと思うのですが、リハビリ出社をするにはどうしたらいいんですか?」
人事 「十分に休んでもらわないと、この方はまだ【リハビリ出社】ができません。」
産業医 「え? この人はもうリハビリ出社を開始できるくらいには良くなっているんですよ?」
人事 「ですが、そもそも【リハビリ出社】というのは、十分休んだ社員が復職するときに使う制度です」
産業医 「え? いや、だからもう十分良くなっていると思うんですけど……」
人事 「ですから、【リハビリ出社】をするにはもっと十分に休んでから……」

この会社では【リハビリ出社】という言葉は、有給休暇が無くなるまで病欠した社員だけが使える特殊な制度のことを指していたのです。産業医はそれをよく理解していなかったため誤解が生じました。

この時、産業医が十分に社内制度を把握していれば「では午後半休やフレックス制度の範囲で、段階的な復職の予定を組んで下さい」と指示できたでしょう。あるいは気の利く人事なら「【リハビリ出社】という制度は長期に休んで欠勤になった人しか使えません。今回は有給休暇が残っているので午後半休などを使いますね。」と説明してくれたことでしょう。

産業医と人事と上司のコミュニケーションが大切
社内制度をうまく運用するためには、関係者がそれぞれの役割を果たすことが大切です。つまり、産業医は医学的な意見を述べ、人事はそれを社内制度に当てはめ、現場はそれを注意深く実行します。

産業医は社内制度と社内用語について、人事担当者はうつ病の復職について勉強しなくてはいけません。共通の理解を持ち、共通の言語で話をし、足並みをそろえるためには、日々のコミュニケーションが大切だなぁと考えさせられた事例でした。

うつ病の社員を段階的に復職させる制度

うつ病で休職している社員の復職は「段階的に」行うことがもっとも重要です。例えば半日程度の勤務から徐々に勤務時間を延ばしていく「慣らし出社」が必要です。また、復職後もすぐに元の業務に戻るのではなく、数ヶ月をかけて業務負荷を徐々に増やしていくなど、完全復帰まで半年程度の時間をかけることが復職を成功させるポイントになります。
 

段階的な治療出社を経て復職する時の一般的な経過 (クリックで拡大)

うつ病の社員はたいてい3ヶ月ほど休業するため、多くはいわゆる「私傷病欠勤」の扱いになっています。僕の勤めている会社では、欠勤中の社員にも出社を認める「治療出社」という制度があり、段階的な復職を行う期間にあてています。勤怠管理上は休業の扱いとなるため労働災害や通勤災害の直接の対象ではありませんが、会社がそれに準じた保障を行うことが定められています。この期間は最長3ヶ月と決められていますが、治療出社の途中で調子が悪くなったときは何度でも中止して休養できます。フルタイムでの勤務が安定してきたと判断された時点で正式な復職を行います。

休職した本人は早く職場に復帰して休んでいた間の遅れを取り戻したいと思っていますし、上司や同僚もそれを期待していまいます。そのため、復職を急ぎすぎることがあり、本人の回復の度合いを超えた負荷がかかって病状が悪化することも珍しくありません。100%の力が出せるようになるには半年以上かかるということ、再発予防のためには1年間は通院を続ける必要があることを、本人にも周囲にも強調しておきます。

うつ病の社員の治療と休職

うつ病は「生命のエネルギーが欠乏した状態」です。意欲の低下・食欲の低下・睡眠障害・集中力や判断力の低下などがその症状としてあらわれます。うつ病はありふれた病気で、軽いものまで含めると10人に1~2人の頻度で発症します。うつ病は内服薬によって治療し、休職して休むことで必ず完治します。
 
これまでのデータから、仕事を休む期間は最低3ヶ月間は必要だといわれています。僕が産業医として働いている会社には、うつ病の社員を原則として3ヶ月間休ませ、段階的に復職させる制度があります。この制度を利用して、多くの社員が職場に戻って元気に働いています。


うつ病の一般的な治療経過 (クリックすると拡大)

会社によって、病気で休職できる期間や、復職の際の制度は異なりますが、うつ病で休職した方は一般的に上の図のような経過をたどって回復してきます。「うつ病は治療すれば必ず治る」ものです。また、全員が会社を休まないといけないほど症状が重いわけでもありません。早めに専門医を受診し、必要であれば社内の窓口(健康管理室・保健師・産業医など)に相談してください。