ストレスマネジメントの講演 Q&A (その2)

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7月6日、都内某所でメンタルヘルスの講演を行いました。今回は8名の方に参加していただきました。「認知のゆがみとストレス」をテーマに話をするのもこれで3回目になりますが、参加者と意見交換をするたびに新たな気づきがあり、理解が深まります。(前回のQ&Aはこちら)

さて、今回も、アンケートの中からご意見とご質問をいくつか紹介します。

ご意見・ご感想

20代のころと比べて、今はストレスに強くなっているようです。知らず知らずのうちに「ストレスの小さくなる考え方」が身についていたのだと気づきました。

仕事の将来や顧客からの評価に対する不安をずっと感じています。今日、説明のあった「ストレスの小さくなる考え方」を習慣にできればと、少し希望を持ちました。

「腹が立つ」という感情を持つこと自体は悪いことではないと聞いて、ホッとしました。今までは「こんなことで怒るべきではない」と自分の気持ちを抑えつけたり、自己嫌悪に陥ったりしていました。

イライラすると、つい周囲の人に当たってしまいます。自分で怒りやストレスをコントロールできるようになればと思って参加しました。自動思考やストレス手帳の実習はとても参考になりました。

ご質問と回答

「ストレスの小さくなる考え方」を紹介していただき、「べき思考」や「全か無か思考」は大いに納得できました。何事も完璧を求めようとするとき、「人間だから、しょうがない」と考えればよいのでしょうか。

→ 身の回りには、自分ではコントロールできないことがたくさんあります。「他人と過去は変えられない」という有名な言葉もあります。「自分はこう思うけど、現実はそうじゃないこともありうる」「自分はこう思うけど、そう思わない人もいる」「全部終わらせたいけれど、今は時間が無いから80%しかできない」と考えるのは、より合理的だと言えるでしょう。

うつ病には、しっかりと休ませないといけない事例もあれば、もう少し本人にがんばって欲しい事例もあります。しかし職場では、腫れ物をさわるように、どちらのケースも同じように扱っています。職場での対応について理解してもらうためには、どうしたらいいでしょうか。

→ ひとくちに「うつ状態」と言っても、ストレス要因や職場環境はそれぞれの事例ですべて異なります。事例に関するアセスメント(分析・評価)をしっかり行い、職場の上司を巻き込んで対応することが大切です。本人だけではなく、上司とも面談を行い、本人の様子や職場の様子などについて意見交換をしながら、対応について話し合うといいのではないでしょうか。

産業医は社員の味方? それとも会社の味方?

主治医と産業医の違い

ときどき「復職可の診断書を会社に提出したが、産業医に却下された」「産業医は会社の手先だ」という話を聞くことがあります。主治医の診断書と産業医の意見書、会社はどちらを優先すべきなのでしょうか。産業医は本当に会社の味方なのでしょうか。

 
そもそも契約関係が違うし、目指すゴールも違う

病院の医師(主治医)と患者の間には治療契約が存在し、主治医は患者の生命と健康を最優先に治療を行います。主治医が目指すのは日常生活レベルの回復、つまり退院して家で暮らせるようになることです。

産業医は社員との直接の契約関係にはなく、会社と業務契約を結び、会社が安全配慮義務を果たす手伝いをしています。産業医が目指すのは就業可能レベルの回復、つまり社員が元気に働けるようになることです。

 
社員の味方だとか会社の味方だとかではない

つまり産業医は社員の味方だとか、会社の味方だとか、そういう立場ではないのです。あまり「対立」や「中立」とかいう考えにこだわると、社員や会社への健康支援活動がやりづらくなることがあります。
 
主治医の診断書と産業医の意見書の違い

主治医は患者の利益を最優先する立場にあります。患者に「復職可能と書いて欲しい」とか「自宅療養が必要と書いて欲しい」と頼まれると、その意向を最大限に取り入れた診断書を書きます。

産業医は、健康上の問題を抱えた社員が安全に働くために、本人の状態・仕事の状況・就業規則などを総合的に判断して、会社に意見を述べます。最終的には、産業医の意見を参考にしながら、就業規則や判例に従って会社(人事担当者)が判断を下します。

 
トラブルを避け、スムーズに職場復帰を進めるために

復帰のトラブルの大半は、職場復職に関する認識の食い違いが原因です。トラブルを避けるには、休業している時から定期的に産業医面談を行い、職場復帰の進め方について早い段階から話し合い、時間をかけて共通認識を作っていくとよいでしょう。

参考:

制度だけではうまくいかない ~うつ病の復職について~
病気の社員だけがケアの対象ではない
うつ病の人をうまく励ますコツ
産業医とは?  産業医の仕事とは ?

「こんな上司 vs こんな部下」 困ったときの対処法

前回の『こんな上司が部下を追いつめる!?』という記事を配信したところ、社内から多くの反響がありました。そこで今回は、「困った上司」や「困った部下」にどのように対応すればよいのか解説します。
 

《こんな上司》に困っている部下の方へ

自分の体調について考えてみよう

最近「いつもと違うな」と感じるようになったら、身体症状や、メンタル面、持病の悪化など、自己チェックをしてみましょう。小さな異常に気が付いてメンテナンスをしておけば、大きなトラブルを避けられます。

「病院に行くほどでもないけど、どうしよう」と迷った時も、早めに健康推進室にご相談ください。健康推進室に相談した内容が、本人の承諾なく会社に伝わることはありません。

コミュニケーションで切り抜けろ

会社組織の中では、相性の悪い相手とも仕事をすることが求められます。しかし、批判や反発はトラブルの元になるばかりで、解決には結びつきません。

人間関係がこじれたときは、相手にあわせたコミュニケーション方法を選んで切り抜けましょう。困った上司の周囲には「うまく対応している人」がいるものです。その人のやり方を観察してみましょう。

体調の悪そうな部下がいて、困っている上司の方へ

上司の「どうしていいかわからない」には2種類ある

「体調の悪そうな部下がいるがどうしていいかわからない」という上司には、次の2つのタイプがあるようです。

【部下の体調よりも、自分の業績や評価を気にするタイプ】
具合の悪そうな部下をみかけても「何か言ってくるまで様子を見よう」と問題を放置してしまいます。状況はだんだんと悪化していきますが、それについての反省は無く、「仕事ができないアイツが悪い」と部下を責めることもあります。

【部下の体調は心配だが、うまく相談に乗る自信がないタイプ】
何とかしようと思いながらも、プライバシーの問題だとかセクハラだとか拒絶されることを恐れて、なかなか声をかけられません。「部下を別件で呼び出して、さりげなく産業医面談をして、結果をこっそり教えてほしい」とムチャを言ってくることもあります。

部下の健康というリソース管理も上司の仕事

最近では、限られたリソースをやりくりして業務を遂行しなければならない場面が増えています。そのため、起こり得る事態を的確に把握し、適切に対処する「リスク管理能力」が求められています。

言うまでもなく、部下の健康は業務を遂行するための貴重な資源です。部下の健康管理とは、すなわち積極的な業務リスク管理であり、上司に求められる「マネジメント能力」の本質なのです。

部下の体調不良に気づいた時の当社のルール

当社では、「いつもと違う」部下に気づいた時、上司は上のように対応するというルールがあります。

いつもと違う状態のことを「事例性」といい、その背景にある病気のことを「疾病性」(しっぺいせい)といいます。事例性に気づいて対処するのは上司の役割ですが、疾病性の評価は専門家である産業医にまかせましょう。

事例性に早めに気づくには、部下の「いつもの様子」を把握しておく必要があります。また、スムーズな声かけを行うためには、日頃のコミュニケーションが大切です。

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この記事は、私が専属産業医をしている企業内で配信しているメールマガジンの内容を、ウェブ用に書き直したものです。

うつ病の人をうまく励ますコツ

「うつ病の人を励ましてはダメと言われるが、何と声をかければいいのか」「何ヶ月も会社を休んで、やっと出てきたが、とても治っているとは思えない」という声をよく聞きます。うつ病の同僚や部下に対して、どのように接すればいいのでしょうか。

うつ病の苦しみ

うつ状態になると、次のような状態が続きます。

1. 食欲がない。
2. 眠れない。特に朝早く目が覚め (午前3~4時)、その後まったく眠れない。
3. 疲労感がとれない。
4. 頭の回転が明らかに落ちている。
5. 今まで楽しかったことが楽しくない。それをすることが面倒だ。

特に職場で著しいのは「4. 頭の回転が明らかに落ちている」という症状です。たとえば風邪をひいて熱が出たときや、ひどい二日酔いのとき、頭の回転が落ちて仕事がはかどらないという経験があるでしょう。うつ状態の時も、それと同じようなことが起こります。しかも二日酔いと違って、そうなった原因も、いつまで続くのかもわかりません。

仕事熱心で完璧主義、まじめ人間ほどうつ状態になりやすいと言われます。そういう人にとって、この状態がどんなにつらいことでしょうか。「検査では異常が無いので様子を見ましょう」と病院では言われるが、体調は明らかにいつもと違う。集中力が無い。書類を読んでも頭に入らない。仕事はちっとも進まない。勤めを続ける自信が無い。いっそ消えてしまいたい……と、面談のときに涙をポロポロとこぼしはじめるのです。

病気のせいでパフォーマンスが一時的に落ちる

うつ病の特徴は「病気のせいでパフォーマンスが一時的に低下すること」です。治療開始が遅くなればなるほど回復も遅くなります。また、回復の途中でアクセルをふかしすぎると、すぐに調子を崩してしまいます。会社を休むほどひどいうつ病の場合は、3ヶ月の休業の後、約1ヶ月の慣らし出社を経て、さらに半年は業務制限を行うようにしないと、うまく仕事に復帰できません。

パフォーマンスの低下がきっかけで、うつ病が発見されることもあります。職場や家庭で、いつもと違う様子の変化に気づいたら、本人にそれとなくたずねてみてください。上記の「うつ状態のセルフチェック」の中で気になることがあれば、「疲れているならお医者さんに行ってみれば?」などと、産業医や精神科医に相談するよう勧めてあげましょう。

職場復帰してきた人にどう接するのか

うつ病の人と接するときの注意点として、励まさない、重大な決断をさせない、無理に気分転換に誘わない、といったことが知られています。それを聞いて「じゃあ何と言えばいいのか」と、疑問に思う人も多いでしょう。

どんなにうつ病のことを理解していても、相手を100%傷つけない言葉などありません。あまり難しく考えず、「早く元気になって欲しい」、「元気になるまで待つよ」、「ゆっくり休んでいいよ」、「力になってあげたい」と、相手を受け止め、支える気持ちを言葉で伝えることが大切です。気持ちを言葉にして伝えれば、きっと相手の心に届き、回復の助けになります。

そろそろ元気になったみたいだから、食事に誘ってみようかな、どうしようかな、と迷っているのなら、「そろそろ復帰して3ヶ月たつね。元気も出てきたようだし、また食事でもしながら話をしたいと思うんだけど、どうだろうか。しんどいなら今日は無理しないでいいよ。また今度にしよう」と、気持ちをそのまま伝えてみてはどうでしょうか。

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「いつもと違う」部下に気づいたら……?

社内で展開されているメンタルヘルス教育のおかげで、セルフケアやラインによるケアが充実してきました。上司が「いつもと違う部下」に気づき、産業医など産業保険スタッフに相談するまでの社内のルールをもう一度復習します。
 

数年前から「メンタルヘルス」をキーワードに様々な動きがあります。企業内のメンタルヘルス対策 を進めるには、以下の4つのケアが重要です。前回の「アサーション」や、社内イントラネットに掲載されている「うつ状態の自己点検リスト」などはセルフケアを支援するものです。

(1) セルフケア (2) ラインによるケア (現場でのケア) (3) 社内資源によるケア (産業医、保健師、衛生管理者など) (4) 社外資源によるケア (精神科や心療内科、EAP事業など)

上司によるケアが充実してきた

ラインによるケアというのは、課やチームなど現場のメンバーによるケアのことです。その中でもっとも重要なのは上司による「気づき」です。このことは当社の管理者研修にも取り入れられています。その効果か、最近では上司から産業医へ相談が寄せられるケースが増え、メンタルヘルスの不調を示すケースに早期に対処できるようになりました。

いつもと違う部下に気づく

管理監督者(上司)は、以下に示すような部下の「いつもと違う行動」に気づくことが大切です。これらの「いつもと違う」部下に対して、上司は職務上何らかの対応をする必要があります。

・ 遅刻、早退、欠勤が増える ・ 無断欠勤がある ・ 残業、休日出勤が不釣り合いに増える ・ 仕事の能率が悪くなる ・ 業務の結果がなかなか出てこない ・ 報告や相談、職場での会話が無くなる ・ 表情や動作に元気が無くなる ・ 不自然な言動が目立つ ・ ミスや事故が目立つ ・ 服装が乱れたり不潔になる

どうやって産業医につなげるのか

いつもと違う部下の行動の背景には何らかの病気が隠れていることが少なくありません。通常の労務管理をする前に、病気の有無を確認をしなくてはいけません。

しかし、この判断を上司に求めるというのは適切ではありません。そこで当社では次のようなルールを作り、病気の有無については産業医が判断をするようにしています。病気であると判断された場合は治療のラインに乗せ、病気ではないと判断されたとき、上司は通常の労務管理を行います。

(1) 上司が「いつもと違うけどどうした」と声かけをする。 (2) 部下が話をしてくれたらそれを聴く。「何でもありません」と言って話をしてくれないときは、「そうか」と言って、深追いはしない。 (3) 2週間くらい状態の推移を見守り、いつもと違う様子がさらに続く場合にはもう一度声かけをして話を聴く。 (4) それでも応じてくれない場合には、産業医のところにいくよう指示をする。 (5) 産業医への相談に部下が応じない場合は、上司自身が産業医のところに相談にいく

この中で気をつけることは、心配だから自分が産業医に相談するということを、上司が部下にはっきり告げるという点です。例えば、次のようなやり方はルール違反です。

× 「部下の様子が最近おかしい。産業医から部下を呼び出して欲しい」

このような場合、産業医が本人に接触しようとしたときに「先生はどうしてそんなことを知っているのですか」と反論され、それ以上進めなくなることがあります。必ず上司の指示で産業医面談につなげるようにしてください。

参考: 「いつもと違う部下」への対応をどうするか?

この記事は、私が専属産業医をしている企業内で配信しているメールマガジンの内容を、ウェブ用に書き直したものです。