コミュニケーションの3つのやり方 (アサーション)

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言いたいことをはっきり言えず、後で悔やんだことはありませんか? 逆に、強い口調で言いすぎてしまったと、後で気まずい思いをしたことはありませんか? 自分と相手の両方を大切にしながら、自分の意見を率直に伝えるコミュニケーションのことを「アサーション」と言います。

コミュニケーションの3つのやり方

私たちはみんな、職場や家庭で気持ちのよいコミュニケーションを交わしたいと思っています。しかし、自分の意見を素直に表現することは、思っている以上に難しいものです。人間関係におけるコミュニケーションのやり方は、大きく次の3つに分けられます。

(1) 自分のことだけを考えて相手を踏みにじるやり方
(2) 常に自分よりも相手を優先してしまうやり方
(3) 自分のことも考え、相手のことも配慮するやり方

私たちは立場や状況によって、この3つのやり方を使い分けています。
例えば次のような場面で、あなただったら、どのやり方を用いるでしょうか。

事例 : 夕方の忙しい時に上司から仕事を頼まれた!

Aさんはある会社の営業マンです。夕方、客先から会社に戻ったAさんは、パソコンを立ち上げて仕事にとりかかりました。今日は客先でトラブルがあり、明日までに宿題を仕上げなくてはなりません。いつもより遅くなりそうだと覚悟したその時、上司のB課長がやってきてこう言います。「本部から頼まれたこの報告書、明日までに仕上げてくれないかな。」

Aggressiveタイプ1: 顧客からの苦情を思い出してイライラしていたAさんは、明らかに不機嫌そうな声で「明日までって言われても、こっちも仕事があるんです。いつもいつもこんな時間に仕事を持って来て、少しは考えて下さいよ!」と言ってしまいました。
B課長は困った顔をしながら立ち去ります。後になって、Aさんは上司に強く言いすぎたこと、上司の指示をはねつけたことが気になり、あまり仕事に集中できませんでした。翌日からもAさんとB課長の間は何となくよそよそしいままです。

Passiveタイプ2: Aさんは、今日はいつ帰れるだろうかという気持ちを押し殺し、上司の命令だからとあきらめて「はい、わかりました。」と言いました。B課長は「頼んだよ」と言い残して帰ってしまいます。その日、顧客と上司を恨みつつ、なおかつ自分のことを情けなく思いながら、Aさんは誰よりも遅くまで残業をすることになりました。

Assertiveタイプ3: Aさんは「実はお客様から宿題を頂きまして、明日までに仕上げなくてはならないんです。」と、ていねいに、しかし、はっきりと伝えました。するとB課長は「そうか、今日はそちらを優先してくれ。しかし他にこの仕事をまかせられる人はいないし、明後日の午前11時まででいいから、やってもらえないか。」と言います。Aさんはスケジュールを確認した後「わかりました。」と答えました。
その日、Aさんは客からの仕事に集中でき、いつもより30分遅くなっただけで帰ることができました。

さわやかな自己表現 “アサーション”

いかがでしたか。やや極端な例でしたが、3種類のやり方の特徴を理解していただけたと思います。

Aggressiveタイプ1は「攻撃的なやり方」です。自分の意見をはっきりと主張していますが、相手の言い分や気持ちを無視して自分の意見ばかりを押しつけています。「自分は決して悪くない」と思いこんでいるタイプの人によく見られます。このやり方はコミュニケーションをシャットアウトしてしまうので、周囲の人をどんどん遠ざけてしまいます。

Passiveタイプ2は「非主張的なやり方」です。相手の意見を尊重しているように見えますが、実は「上司の頼みを断ったりしたら、評価が下がるかも」と心配するあまり、自分の気持ちを押し殺しているのです。このやり方を続けていると、抑えていた怒りが突然爆発して人間関係がこじれたり、ストレスに押しつぶされて病気になったりすることがあります。

Assertiveタイプ3は「アサーティブなやり方」です。自分の意見も相手の意見も大切にしており、意見の食い違いがあっても歩み寄ろうとするやり方です。たとえ自分の意見が通らなくても、相手に自分の気持ちを率直に伝え、対等にコミュニケーションができたことで、お互いにさわやかな印象が残ります。

アサーティブなやり方で、お互いを大切にした気持ちのよいコミュニケーションを交わすことは、良好な人間関係を築く基礎になります。次回は「アサーティブになるために必要なこと」について説明します

 
参考文献:『アサーショントレーニング ~さわやかな「自己表現」のために~』
(平木 典子、日本・精神技術研究所)
『「NO」を上手に伝える技術』(森田汐生、あさ出版)

アサーション (3) ~問題解決のためのアサーション~

これまで2回にわたってアサーションについて説明してきました。アサーションとは、お互いを大切にしながら、それでも率直に、素直にコミュニケーションを交わすことです。アサーションを身につけるには、私たちが持っている非合理的な思いこみを正し、自分の感情をきちんと把握することが大事です。
 
アサーション (1) ~自分の意見をさわやかに表現する~
アサーション (2) ~さわやかに自己表現できない理由~

問題解決のためのアサーション

今回は、相手に何かをお願いするとき、言いにくいことがあるとき、複雑な話をきちんと整理する必要があるときに役立つ言い方を紹介します。このような場面では「DESC法」を使ってセリフを準備します。DESC法とは、次のようにして言うべきことをあらかじめ整理しておくやり方です。

Describe (状況を描写する)
状況や相手の行動を描写する。具体的で客観的に表現できることを述べる。相手の意図や自分の気持ちなどは含めない。
Explain (自分の気持ちを説明する)
(D)に対する自分の主観的な気持ちを述べる。あまり感情的にならず、正確に、建設的に表現する。
Specify (提案をする)
相手に望む行動や解決案や妥協案などを提案する。具体的で現実的な小さな行動を明確に述べる。
Choose (代案を述べる・選択する)
相手の反応が肯定的な場合と否定的な場合の両方をあらかじめ考えておき、それに対してどういう行動をするか選択枝を示す。

DESC法を利用したセリフの例

DESC法を使って用意した、ある状況におけるセリフの例を見てみましょう。

会議中のタバコ

会議の場で何人かがたばこを吸っています(こんな場面は少なくなりましたが)。たばこを吸わないあなたは煙が気になってきました。

「会議が始まって1時間たちますね(D)。この部屋もたばこの煙で一杯になってきました(D)。たばこを吸わないと集中できない人もいると思いますが(D)、私は煙で頭がぼーっとしてきました(E)。ここらで休憩にして空気を入れ替えませんか(S)。もし休憩が無理なら、しばらくたばこをやめて窓を開けませんか(C)。」 

(D:状況描写、E:気持ちを説明、S:提案、C:代案・選択)

いつもと様子が違う部下

最近、遅刻が増えた部下がいます。仕事中もぼんやりしていることが多く、ミスも目立ちます。あなたは上司として、部下に声をかけようとしています。(参考: 『いつもと違う部下』への対応をどうするか?)

「最近、調子がよくないように思うが(E)、大丈夫かね(E)。先週は3回も遅刻していたし(D)、仕事中も手が止まっていることが多いよ(D)。何か問題を抱えているのではないかと私は心配だ(E)。よければ少し話を聴かせてくれないか(S)。もし私に話しにくければ、産業医の先生に話を聴いてもらってはどうだい(C)。」

(D:状況描写、E:気持ちを説明、S:提案、C:代案・選択)

DESC法のポイント

DESC法を使って考えたセリフはかなり長いものになります。しかし、これを一気に全部言う必要はありませんし、順序もこの通りでなくてかまいません。相手との関係や状況によってはいきなり提案の部分(S)を話しても通じるでしょう。話し合いの土台を作るための事実描写(D)が非常に重要になる場合もあります。

大切なことは、事実の描写(D)と自分の主観(E)を区別することです。(D)では誰もが同意できるような事実を客観的かつ具体的に述べ、(E)では自分の感じていることを素直に表現します。

提案(S)が拒否されることも予想しておき、そのときは別の提案(C)をします。他人に意見を伝えるのが苦手な人は「断られたらどうしよう」といつも考えています。提案に対する相手の反応を予測して、その次の対応を決めておくと、気持ちにゆとりが生まれます。

アサーションはいわばDESC法が習慣化されたものです。表現につまずいたり、困ったときには、少し時間をかけてDESC法で考えてみましょう。そのうちに無意識にアサーションができるようになります。

社内のコミュニケーションとアサーション

「仕事術」「マネジメント術」「ストレス対策」など、書店にはさまざまな実用書が積まれています。これらに共通しているのは、いずれもコミュニケーションの問題を扱っているということです。同僚や上司、部下、顧客とのコミュニケーションがうまくいけば、職場のたいていの問題は解決するでしょう。

会社組織そのものにとっても、コミュニケーションは非常に重要です。社内の雰囲気を「風通しがよい」「暖かい」「活気がある」などと表現することがあります。それはすなわち社内のコミュニケーションがうまく機能している状態のことを指しています。

アサーションとはコミュニケーションを円滑に進めるための考え方です。職場だけではなく、家庭や学校、地域社会でも応用ができます。これまで以下の書籍を参考にして、アサーションの基本的なところを紹介してきました。ここで扱った内容はごく一部です。興味を持たれた方はぜひ本書をお読みください。

参考文献:
『アサーショントレーニング ~さわやかな「自己表現」のために~』
(平木 典子、日本・精神技術研究所)

最後に

アサーションの考え方が皆さんの生活を少しでも快適なものにしてくれることを願いつつ、先ほどの本の中からいくつかの言葉を引用して終わりにかえたいと思います。

「自己主張しないことを選択するのも、アサーションのひとつ」

アサーションは自分の意見を主張するためのものだと一面的にとらえてしまう人がいますが、そうではありません。時間がないときや、話をすることが面倒なときに「自分の考えを表現しない」という方法を選択することも、アサーションのひとつなのです。

「過去と他人は変えられない、変えられるのは自分自身と未来だけ」

わたしたちには、過ぎたことを変える力はありません。変わって欲しいと他人に期待することはできますが、他人を変えることはできません。どうにもならないことに余計なエネルギーを費やすのはやめにして、もっと建設的に前向きに生きようという言葉です。

この記事は、私が専属産業医をしている企業内で配信しているメールマガジンの内容を、ウェブ用に書き直したものです。

アサーション (2) ~さわやかに自己表現できない理由~

前回は「アサーション」という、自分と相手の気持ちを大切にしながら、自分の意見を表現するコミュニケーション方法を紹介しました。職場だけでなくさまざまな場面で応用できるスキルです。しかし、理屈ではわかっていても実践するのは難しいものです。

私たちはどうしてアサーティブになれないのでしょうか。その理由は大きく2つあります。
 

アサーティブになれない理由(1) 「非合理的な思い込み」

アサーティブになれるかどうかは、わたしたちのふだんの考え方に大きな影響を受けます。次の文章を読んで、あなたの考え方に「非常に当てはまる」「かなり当てはまる」「どちらとも言えない」「あまり当てはまらない」「まったく当てはまらない」の5つで答えてみて下さい。

 (1) 人は誰からも愛され、人から受け入れられるようであるべきだ。
 (2) 人を傷つけてはいけない。そのような行為は非難されるべきだ。
 (3) 人は常に完璧でなくてはならず、失敗をしてはいけない。
 (4) 危険や害になりそうなものに、人は深刻に心配をするものだ。
 (5) 思い通りにことが進まないことは致命的なことだ。

いかがでしたか。当たり前のことを述べているようですが、「人は…」「常に…」「…てはならない」など、極端な文面が並んでいます。これらはすべて、知らず知らずのうちに私たちの思考や行動を縛り付けている考え方で、「非合理的な思い込み」と呼ばれています。

例えば(1)と(2)、この考え方に強く縛られていると、他人と異なる意見を言えなくなります。(3)や(5)の思い込みが激しいと、失敗を恐れるあまり、自分を強く責めたり、他人の小さな失敗まで気にするようになります。(4)や(5)の考え方が過ぎると、思い通りにならないことがあるとイライラして、相手を責めることになります。

これらの思い込みに対抗する有効な考え方は「何があっても、それで致命的になることは滅多にないものだ」というものです。例えば「他人を傷つけないにこしたことはないけれど、傷つけてしまうこともあり得るし、その時は修復に心がければよい」と考えてみましょう。

自分の作り出している非合理的で非現実的な思い込みをチェックし、なるべく建設的で合理的なものに変えていくと、ずんぶん楽に生きられるようになります。

アサーティブになれない理由(2) 「日頃、自分の感情を意識していない」

人間は喜怒哀楽のいろいろな感情を持って暮らしています。しかし私たちはその感情をいつも意識しているわけではないようです。感情をいつでも表現できるかというと、実際はそうではなく、怒りや悲しみは表現してはいけないとか、男はメソメソするものではないとか、非合理的な思い込みにとらわれています。

アサーションは自分の感情を大切にするやり方です。感情はまぎれもなく自分のものであり、自分の責任において表現できるものです。

例えば、Aさんが大きな音を立ててギターを弾いているとしましょう。それを聞いてうるさいと思う人もいれば、感動的だと思う人もいます。うるさいと思っていても、それは「Aさんがうるさい」のでも「ギターの音がうるさい」のでもなく「Aさんが大きな音を立ててギターを弾いているのを聞いて」「私はうるさいと感じている」のです。

「私はいま○○○という状況に対して△△△と感じている」というように、主語を「私」にすると、自分の感情を理解する練習になります。○○○の部分には人の名前ではなく、客観的にとらえられる事実や状況を入れます。例えば「あなたが騒ぐから」ではなく「あなたが大きな声を出すと、私は騒がしいと感じるから」というふうにします。

自分の感情と、それを引き起こしている状況とを客観的に説明できるようになると、アサーションの考え方になじみやすくなります。

まとめ

アサーションを身につけるには「自分の感情は自分のものであり、自分の責任において表現してもいい(あるいは、しなくてもいい)」と認識することが大切です。

次回は、他人に何かを提案したり、意見の異なる相手と話をする時の具体的な方法、「問題解決のためのアサーション」について説明します。

参考文献:
『アサーショントレーニング ~さわやかな「自己表現」のために~』
(平木 典子、日本・精神技術研究所)

この記事は、私が専属産業医をしている企業内で配信しているメールマガジンの内容を、ウェブ用に書き直したものです。

アサーション (1) ~自分の意見をさわやかに表現する~

言いたいことをはっきり言えなくて、後で悔やんだことはありませんか? 強い口調で言いすぎてしまったと、後で気まずい思いをしたことはありませんか? 私たちは誰もが、職場で、家庭で、気持ちよくコミュニケーションを交わしたいと思っています。しかし、自分の意見を素直に表現することは、思っている以上に難しいものです。

あるアメリカの心理学者によると、人間関係のあり方には大きく分けて3種類あるとされています。1つ目は、自分のことだけを考えて他者を踏みにじるやり方、2つ目は、常に自分よりも他者を優先してしまうやり方、3つ目は、自分のことも考え、他者のことも配慮するやり方です。
 
例えば次のような場面で、あなたはどんな言動をとるでしょうか。

事例 : 営業マンAさんとB課長

Aさんはある会社に勤める営業マンです。夕方、客先から会社に戻ったAさんはパソコンを立ち上げて仕事にとりかかりました。今日は取引先から苦情を頂いており、明日までに宿題を仕上げなくてはなりません。いつもより帰りが遅くなりそうだと覚悟したその時、上司のB課長がやってきてこう言います。「本部から頼まれたこの報告書、明日までに仕上げてくれないかな。」

タイプ1: 客からの苦情を思い出してイライラしていたAさんは、明らかに不機嫌そうな声で「明日までって言われても、こっちも仕事があるんです。いつもいつもこんな時間に仕事を持って来て、少しは考えて下さいよ!」と言う。B課長は困った顔をしながら立ち去る。後になって、Aさんは上司に強く言いすぎたこと、上司の指示をはねつけたことが気になり、結局その日は仕事に集中できない。翌日からもAさんとB課長の間は何となくよそよそしい。

タイプ2: Aさんは、今日の仕事はいつ終わるだろうかという不安を押し殺しながら、上司の命令だからとあきらめ「はい、わかりました。」と言う。B課長は「頼んだよ」と言い残して帰ってしまう。その日Aさんは、客と上司を恨み、自分を情けなく思いながら、誰よりも遅くまで残業をすることになる。

タイプ3: Aさんは「実はお客様から宿題を頂きまして、明日までに仕上げなくてはならないので、今日は遅くなりそうなんです。」と、ていねいに、しかし、はっきりとした口調で言う。B課長はしばらく考えた後で「そうか、しかし他にこの仕事をまかせられる人はいないし、あさっての午前11時まででいいから、やってもらえないか。」と再び頼む。Aさんは頭の中でスケジュールを調整して「わかりました。」と引き受ける。その日Aさんは客からの仕事に集中し、いつもより30分遅くなっただけで帰ることができる。

さわやかな自己表現 “アサーション”

いかがでしたか。皆さんのやり方はタイプ1~3のどれに近かったでしょうか。いささか極端な例でしたが、3種類のやり方の特徴を理解していただけたと思います。

タイプ1は、自分の意見をはっきりと主張していますが、相手の言い分や気持ちを無視して自分の気持ちを押しつけている「攻撃的なやり方」です。

タイプ2は、一見、相手の意見を尊重しているように見えますが、実は自分の気持ちを押し殺していて、自分が傷ついたり相手に対して恨みがましい気持ちになったりする「非主張的なやり方」です。

タイプ3は、自分も相手も大事にしており、意見の食い違いがあっても歩み寄ろうとするやり方で「アサーティブなやり方」と言います。

アサーティブに自分の意見を言うこと、すなわち「アサーション」を身につけることは、お互いを大切にしながら素直なコミュニケーションを交わすためのポイントとなります。次回から数回に分けてこの「アサーション」という考え方について説明していきます。

参考文献:
『アサーショントレーニング ~さわやかな「自己表現」のために~』
(平木 典子、日本・精神技術研究所)

この記事は、私が専属産業医をしている企業内で配信しているメールマガジンの内容を、ウェブ用に書き直したものです。

第78回日本産業衛生学会のまとめ

 

4月20日~24日に東京で行われた第78回日本産業衛生学会に行ってきました。職場の安全や、はたらく人の健康に関するいろんな発表がありました。その中で気になったいくつかの話題をピックアップしてみます(昨年の学会の感想)。
 

■ダイエット食品を用いた減量指導

テレビや電車広告で有名なダイエット食品「マイクロダイエット」を用いた減量指導の報告がありました。特定の商品や健康法を扱った発表は、発表と言うより宣伝だったりすることもあるので、学会でこのような発表が行われることはとても意外でした。まゆにしっかりとつばをつけて、発表を見てきました。

実際に33名の社員を対象に実施した研究では、2ヶ月間で約4kgの減量効果があったそうです。ダイエット食品を取り入れた方法と他の方法を比べてみると、摂取カロリーを制限するという点では違いはありませんが、カロリー計算の面倒が無く、早期に結果を体感できるという点では優れていると思います。しかし、ダイエット食品は「やせ薬」ではありません。何よりも生活スタイルの継続的な改善が必要なことには変わりありません。

■ITで健康を支援する学習システム

何でもかんでも「IT」と騒いでいた時代は終わりましたが、禁煙や減量、メンタルヘルス教育などをPCを通じて行おうという取り組みは盛んに行われています。「e-ラーニング」などと呼ばれるこの方法には、個人的には大きな魅力と可能性を感じています。

しかしながら、発表や展示を見てみると、ソフトが使いにくそうだったり、文章が読みづらかったり、画面レイアウトが稚拙だったり「これなら冊子でいいか」と思うようなものが多く、なんだか残念でした。

情報を紙芝居的に表示したり、挿し絵をパタパタアニメで動かしたりすることが「IT技術の活用」ではありません。「e-ラーニング = 電子紙芝居」という固定概念から早く脱却すべきでしょう。e-ラーニングならではの高い教育効果を追求するためのヒントは、企業の製品紹介サイトにあるさまざまなコンテンツに隠されているのだと思います。

■長時間残業への対策

以前の記事でも少し取り上げましたが、残業問題は本当に頭の痛い問題です。「長時間残業者への面談」をいくら行っても残業が減るわけではなく、社員からも上司からも「またか」とイヤな顔をされ、しまいには残業という言葉を口にすることすら面倒になってしまいます。

今回の学会でも、残業対策にまつわる多くの発表がありました。今さら繰り返すまでもなく、残業によって健康を害することは明らかです。その中で、われわれ産業保健スタッフのできることは、

・残業の心身への影響について教育して自衛を呼びかけること
・体を壊しそうな社員を早く見つけて適切な処置を手配すること
・残業の実態と健康リスクについて上司や経営者に情報を提供すること

の3つしかありません。残業そのものを減らす努力は、社員や上司、労働組合や経営者、国の施策にまかせるしかないのです。

実際に取り組んでいる企業の担当者と話をしていく中で、何を目的として、どのように活動すべきか、自分の考えを整理することができました。

■仕事のストレスに関する研究

従業員のメンタルヘルスについて、仕事とストレスの関係を調べる研究が盛んに行われています。その研究発表を聞いていつも思うことは、「じゃあ、どうすればいいの? 具体的な対応策は?」ということです。

例えば「残業時間が長いほどストレス反応が高いことがわかった」という発表があったとします。もちろん研究の方法やデータのまとめ方にも興味はありますが、一番知りたいのは「では、どうしたら残業時間が減るの?」、「どうすればストレス反応が減るの?」ということなのです。

しかし、多くの研究はそのような疑問に対する答えが用意できていません。そのことに対して不満を感じていた時期もありましたが、最近では、研究結果を実務の場で活かす方法を考え、実践し、フィードバックを返すことは、実はわれわれ現場の実務担当者の役割ではないだろうかと思うようになりました。

■行動変容、アサーション

1年前に産業医になって、最初に遭遇した問題は「効果的な健康指導を行うにはどうしたらよいのか」ということでした。ただ「体重を減らしましょう」とか「お酒をやめないと死にますよ」などと言うだけでは、効果が期待できるはずもなく、何のために健康指導をしているのかわかりません。

この疑問に答えてくれたのは、昨年の学会のときに一緒に飲みに行った、ある研究者の言葉でした。「それは『行動変容』というんですよ。心理学の分野のひとつです。」 彼にすすめられた本を買って勉強することでずいぶんと理解が深まり、実務にも役立っています。

今年は「アサーション」という言葉を覚えて帰ってきました。アサーションとは「言いたいことを言えずに落ち込んだり、逆に強く言いすぎたと後で悩んだりしないように、さわやかに自己表現する」ということです。教えてもらった参考文献をさっそく手に入れて勉強していますが、非常に明快でタメになることが書かれています。アサーションについては、いずれこのサイトでも触れてみたいと思います。

参考文献:
「アサーショントレーニング -さわやかな自己表現のために-」 (平木典子)
「自己カウンセリングとアサーションのすすめ」 (平木典子)

■まだ勉強不足の分野

産業保健と言えば、工場の生産ラインのように工作機械や化学物質を扱う作業現場の安全を忘れることはできません。今回の学会でも多くの発表がありましたが、僕の担当している地区にはこのような現場が無いため、関心はそれほど高くありません。まだまだ勉強不足を実感します。

■このサイトを見られている!!

一番驚いたのは「サイト、見てますよ!」と何人かに声をかけて頂いたことです。いやあ、本当にびっくりしました。これからもホント、よろしくお願いします。日本の産業のために、はたらく人たちの健康のために、力を合わせてがんばっていきましょう!!