またも医療ミス!? 腹腔鏡手術をうけた29歳女性が死亡
横浜市の昭和大学藤が丘病院で、2002年 10月、クッシング症候群の治療のため副腎腫瘍を摘出する腹腔鏡手術 (ふっくうきょうしゅじゅつ) を受けた29歳の女性が、約1ヶ月後に死亡していたことがわかりました。遺族らは手術ミスを訴え、2003年10月8日、記者会見を開きました。
先月も、慈恵医大青戸病院で前立腺癌の腹腔鏡手術の後に患者が死亡し、執刀医らが業務上過失致死の容疑で逮捕されるという事件があったばかりです。医療関係者のひとりとして、あいつぐ医療過誤報道にショックを隠せません。
■今回の事例の治療経過
患者は2002年の8月にクッシング症候群と診断され、10月1日に腹腔鏡による腫瘍摘出術を受けます。その翌日、出血を引き起こしてショック状態となり、開腹して再手術を行いましたが、約1ヶ月後に死亡しています。家族は病院側の説明に納得できず、警察署に通報して司法解剖が行われました。
■クッシング症候群とその治療
クッシング症候群というのは副腎 (腎臓の近くにある、ホルモンを分泌する小さな臓器) がホルモンの一種であるコルチゾールを過剰に分泌することによって起こる病気で、中心性肥満や満月様顔貌、高血圧、月経異常などの症状があらわれます。成人女性に多く見られますが、発生率の非常に低いまれな病気です。
クッシング症候群の約半数は、ホルモンを過剰に分泌する良性の副腎腫瘍によって引き起こされ、腫瘍を摘出する手術療法が行われています。
腹腔鏡手術とは、腹部に小さな穴をいくつか開け、その穴からカメラや手術器具を出し入れし、モニタの映像を見ながら行う手術のことです。切開が小さく体への負担が少ない、傷跡が目立たない、早く退院できるなどのメリットがあり積極的に行われていますが、高度な技術が必要とされます。
■医療ミスはあったのか
手術後の出血について、病院側は、止血に用いたクリップがはずれていたことが原因だと説明しています。これは腹腔鏡の手術においては予測可能なアクシデントであると考えられます。出血を回避するためにどのような対策をとったか、出血を速やかに発見して適切な処置がなされたかどうかが争点になります。
残念なことに、再手術の後の経過が思わしくなかったのか、およそ1ヶ月後に患者は死亡しています。術後の治療経過は公表されていませんが、熱意を持って適切な治療が行われたと信じたいところです。
今回は司法解剖まで行われており、死因についていろいろな所見が得られていると思われます。しかし治療を受けていた1ヶ月の間にもさまざまなことが起きており、医療ミスを裏付ける決定的な証拠にはならないと思われます。
■手術ミスと死亡との因果関係は
病院側としてはおそらく「クリップがはずれ出血を招くというミスがあったが、それは手術では避けられないリスクであり、翌日に発見して再手術を行うことでカバーできた。その後もベストを尽くして治療したが、経過が思わしくなく、残念な結果に終わってしまった」と考えているのではないでしょうか。
ところが、大切な家族を失った家族にしてみれば、思いもよらない転帰を理不尽に感じていることでしょう。「手術のミスによって出血したため、娘を亡くしてしまった」と、怒りと悲しみの矛先を病院に向けてしまうのも当然のことです。
■過失責任と賠償はどこまで認められるのか
今後、おそらく司法の場で争われることになるのは「病院側の対応が、当時求められていた平均的な医療水準を満たしていたかどうか」という点でしょう。カルテや検査結果などの記録や、関係者の証言、司法解剖の結果や、公平な立場にいる医師の意見(鑑定)などが証拠として示されることになります。
必要な証拠はそろっていますが、その解釈と判断は非常に難しい問題です。弁護士や裁判官は医学の専門家ではありませんから、外部の医師に鑑定を依頼し、その鑑定結果が裁判では重視されます。そのため鑑定を行う医師の立場や考え方などによって判決が大きく左右されることになります。医師の過失と負うべき責任や賠償の範囲など、司法がどのように判定するのか注目すべき事例です。
■増え続ける医療訴訟
わが国の医療訴訟は過去10年間で倍増し、平成13年に新規に受理された医療訴訟は803件にもおよんでいます。訴訟先進国のアメリカの例を見るまでもなく、増え続ける医療訴訟はその国の医療に多大なダメージとストレスを与えています。明らかなミスがある場合を除いて、医師は患者の不利益や不運にどこまで責任を負うべきなのでしょうか。
• 腹腔鏡手術後に死亡 遺族がミス主張 (Yahoo! ニュース)
• 続報:医療ミスと「鑑定」の問題に進展あり(2004/02/20)
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